早すぎたクオリティマガジン『NOW』【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」23冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」23冊目
誌面に出てくる人物が、これまたゴージャス。いや、今の目で見るからそうなのであって、当時は“新進気鋭の若手”だったのだろうが、「MY LIFE STYLE 俺のワードローブ」には田中健、水谷豊、草刈正雄、「忙中閑あり」というコーナーには豊田有恒、小野耕世、田中光二らが登場する。田名網敬一のイラスト、眉村卓のインタビューや池波正太郎、湯村輝彦の連載もあった。
この時代に「日本のホモセクシャル」なんて特集を組んでいるのも先進的だ。ゲイ雑誌の草分け『薔薇族』(1971年創刊)編集長・伊藤文學による日本のホモセクシャルの現状報告、二丁目の「ホモ・バー」ルポ、さらには若き日の美輪明宏までが登場しているのには驚いた。

もう一冊の25号(1974年12月20日発行)の目玉は、なんといっても立木義浩撮影の山口百恵だ。いわゆるアイドルグラビア的なものではなく、日常の一瞬を捉えたようなモノクロ写真は貴重。芸能人運動会的なバレーボールの場面で、ブルマ姿の写真もあった。
8ページにわたって展開された「ミニ・スカート不滅論?」は、いかにも当時の男性誌らしい。新聞の号外風の「全国指名手配紳士録」、「ファッション・ボーイの内幕」と題した男性モデルの実態ルポなどの記事もなかなか読ませる。バーボンウイスキーのタイアップっぽい記事も“ザ・男の世界”という感じでシブい。
雑誌好きとして、これはもっと見てみたい! というわけで、古本屋でバックナンバーを買い集めた。創刊号(1968年6月20日発行)は入手できなかったので国会図書館で閲覧したが、その表紙がまたすこぶるカッコいい。金髪をなびかせた女性がキリッとしたまなざしでこちらを見つめる写真にタイトルロゴがかぶさり、「no.1 創刊号 summer」の文字だけが入る。創刊から5号目までは左綴じのヨコ組みで、洋雑誌のような雰囲気だ。
編集後記に記された創刊の辞は勇ましい。
〈NOWは世界を追う。/NOWは人類を追う。(中略)NOWはどこへでも飛んでいく。世界のどこへでもいく。/NOWは政治にも介入する。NOWは憲法にも立ち向かう。NOWは同情を否定する。NOWは過去と未来を語らない。/愛読者諸君!/NOWが差し出した大きな手を握りかえしてくれたまえ。たとえ毛むくじゃらな武骨な手であっても,その手には“現在”という血が脈々とたぎっているはずだ。/男の世界! バンザイ!〉
いささかマッチョ臭漂うが、学生運動が最盛期を迎え、『あしたのジョー』の連載が始まった1968年という時代背景を考えれば、さもありなん。この熱弁とは裏腹に、誌面はむしろクール。もくじを見ると、草森紳一、浩宮徳仁親王殿下、石原慎太郎、日暮修一、澁澤龍彦、式場壮吉、石津謙介、都築道夫、野坂昭如……と錚々たる名前が並ぶ。
そして横文字のスタッフクレジットに「ART:NIN EJIMA」との記載が。そう、アートディレクターは江島任だったのだ! 「だったのだ!」と言われても知らない人は知らないと思うが、江島任といえば日本のエディトリアルデザインの開拓者である。個人的には『月刊プレイボーイ』(集英社/1975年創刊)のADのイメージが強かったが、前出の『装苑』『ハイファッション』のADも務めていたというから、その流れで『NOW』も担当することになったのだろう。
検索してみたら『アートディレクター江島任 手をつかえ』(リトルモア/2016年)という本が出ている。中古価格で2~3万の値が付いていて、さすがにちょっと手が出ないが、『NOW』についても語られているようなので、機会があれば見てみたい。